文化

日本の「先輩・後輩」文化とそれぞれの役割

sempai and kohai

日本には「先輩・後輩」という文化があることに驚かれた外国人の方も多いのではないでしょうか。役職で決まる「上司・部下」とは違う上下関係が存在し、その慣習を不思議に思うことも多いはずです。

この記事では日本の先輩・後輩の文化についてご紹介するとともに、それぞれの役割について解説します。知っておくと、日本でのコミュニケーションを円滑にすることができます。

先輩・後輩とは?

sempai and kohai

日本にはなぜ先輩・後輩という文化があるのでしょうか。先輩・後輩が生まれた背景と、どのような文化なのかをご紹介します。

先輩・後輩の文化が生まれた背景

日本に先輩・後輩の文化が生まれた背景には、中国の「儒教」の教えがあるといわれています。儒教には「五倫」とよばれる、人が守るべきとされる5つの道があります。

  • 父子の親(ふしんのしん):父と子は親愛の情で結ばれていること
  • 君臣の儀(くんしんのぎ):主君と臣下の間には儀の徳があること
  • 夫婦の別(ふうふのべつ):夫と妻にはそれぞれの役割があること
  • 長幼の序(ちょうようのじょ):年上の者と年下の者の間には秩序があること
  • 朋友の信(ほうゆうのしん):友人の間には信頼の情があること

先輩・後輩の文化は「長幼の序」からきているとされています。長幼の序は単に年上の者を敬えといっているのではありません。年上の者は年下の者を慈しむものとされ、両者の間には秩序があるとされています。

年齢にみられる先輩・後輩

年齢による先輩・後輩の文化がもっとも色濃く出ているのが、学校のクラブ活動です。

日本の学校では「部活」という名前のクラブ活動があります。部活の先輩・後輩の関係は、日本人が最初に経験する上下関係といえます。この関係は学校を卒業した後も続き、年齢を重ねても続く生涯のコミュニティとなります。

部活に限らず、同じ学校の出身というだけで、先輩・後輩の関係ができあがることも珍しくありません。政治やビジネスの世界で同じ大学の出身が集まる学閥の存在は広く知られています。

経験年数にみられる先輩・後輩

年齢以外にも先輩・後輩を決定づける要因があります。それが経験年数の差です。

例えば会社に入社した時期が早い人は先輩、後からに入社した人は後輩になります。これは年齢に関係なく、経験年数の長さによって決まる先輩・後輩関係です。

ただし、ここにも年齢による先輩・後輩の影響はあります。経験年数が上の先輩が後輩よりも年下だった場合、先輩は後輩に敬語を使ったり、敬う姿勢を見せたりします。

これは上司と部下のように上下関係がはっきりしていてもみられる傾向です。上司が年下、部下が年上の場合、上司が部下に敬語を使うこともあります。

この辺りが外国人の方が理解しづらい先輩・後輩の関係ではないでしょうか。比較すると以下のような傾向があります。

年齢による先輩・後輩 > 経験年数による先輩・後輩 > 上司・部下の関係

もちろん日本人全員がこのような傾向にあるわけではありません。自分の方が「年齢が上で経験年数が長い」場合でも、上司・部下の関係を重視する人もいます。どんな立場の人に対しても敬語を使って丁寧なコミュニケーションをとる人も少なくありません。

外国人の方はこの傾向を踏まえて、周囲の人間関係を観察してみれば混乱することがなくなるのではないでしょうか。

先輩の役割

sempai

先輩となった人が主に行う役割についてご紹介します。

後輩の指導・教育をする

部活ならば部活のルールやしきたり、仕事ならば職場の規則や仕事の進め方などを後輩に指導・教育をするのが先輩の役割です。

部活や職場に入ったばかりのときは、誰もが右も左もわからない状態です。その時に指導をしてくれる先輩の存在は非常にありがたく、尊敬の気持ちが後輩の心に長く残ります。

日本の職場は新卒一括採用を行っているので、ある程度の規模の会社であれば前年に入社した先輩がいることが多いです。年齢も経験年数も近い存在が同じ職場にいることは後輩にとって安心感がありますし、先輩にとっても後輩の指導を行うことは自身の成長になります。

新卒一括採用も日本の特殊な文化といえますが、メリットも多い制度です。

後輩の面倒をみる・世話をする

ここでいう面倒をみる、世話をするというのは、主にプライベートの要素が強いです。仕事の悩みを聞く、相談にのる、アドバイスをするといったことも先輩の役割ですが、金銭の補助や生活の面倒をみることを指しています。

金銭の補助や生活の面倒というと少し大袈裟ですが、よくある行為が「食事を奢る」というものです。

先輩・後輩が食事に行ったとき、「食事代は先輩が払うもの」という認識が日本にはあります。全員が必ずしも奢らなければいけないということではありませんが、先輩であればその心構えはしているものだといえます。

これは芸能人やスポーツ選手の影響も大きいです。芸能人が後輩に大きな金額のものを奢ったという話が、テレビで面白おかしく語られています。スポーツ選手はどんなに収入に差があっても、年上の選手が年下の選手の食事代を払う、芸能人は年齢に関係なく業界歴が長い人が払う、といったエピソードも語られています。

テレビの影響もあり、先輩が後輩の面倒をみる・世話をするという役割があるのです。

後輩の役割

kohai

次に後輩の役割を紹介します。後輩の役割は大きくわけると3つあります。

  • 先輩の世話をする
  • 先輩に恩を返す
  • 先輩と同じことを自分の後輩にする

これらはすべて先輩を敬う気持ちからきています。

先輩の世話をする

職場ならば仕事のサポート、プライベートならば先輩の車の運転など、できるお世話をします。これは師弟関係、付き人に近いかもしれません。

先輩から仕事の指導・教育、金銭面の援助をうけても、後輩はすぐに返せるものがありません。そのため、自分にできる簡単なことから先輩のためにすることが、後輩の役割といえます。

先輩に恩を返す

先程の先輩の世話をする段階から成長すると、何かしら形にあるものを返すようになります。仕事の成功かもしれませんし、プライベートなことかもしれません。

恩を返すと近い意味で、「仁義を通す」という言葉が日本にはあります。仁義も儒教の教えからきているとされ、「仁」は人を思いやる、「儀」は人が守るべき道とされています。先輩から受けた恩を返すことは、「後輩が守るべき道で、先輩を思いやる」行為となります。

先輩と同じことを自分の後輩にする

先輩の世話をする、先輩に恩を返すという後輩の役割を紹介してきましたが、実は先輩はそれほど後輩にその役割を期待しているわけではありません。

それより期待していることは、自分と同じようなことを後輩が自分の後輩に行うことです。後輩が自分の後輩にも同じようなことをする、そうすることで先輩・後輩の文化が続くこととなり、今日の日本で根付いている文化となったのです。

先輩・後輩の文化は外国人の方には理解しづらい点もあるかもしれません。しかし、単なる上下関係や金銭の援助だけでなく、仁義の心を伝え続けていくことが、礼節を重んじる日本人の気質を育てることにつながっているといえるのです。

まとめ

「先輩・後輩」の文化は日本人の気質につながる文化です。島国で移民の少ない日本だからこそ、内部の結びつきを強くする働きがあり、日本人独特の気質を生み出したのかもしれません。

あなたの周りの先輩・後輩の環境を観察してみるのも面白いかもしれません。お互いの関係性がわかれば、日本人とのコミュニケーションを円滑にする手助けになるはずです。

タイトルとURLをコピーしました